今日は、「地域遺伝子資源研究の現状と地域性種苗のあり方」についてお話ししたい。
話の内容は、以下の4点である。まず、今なぜ「地域性」が問題なのかを考えたい。ここでは「地域性」
ということばについて、抽象的な概念検討をなるべく排除して、できるだけ具体的に考えることにする。
次に、日本列島において、どのようにして「地域性」が生じたのかを、その歴史的な観点から論じたい。
三番目は、これが一番重要だが、いかに「地域性」というのを解明するのか、その方法論と現在の知見を
まとめてお話したい。日本産の樹木にどのくらい「地域性」があるのか、またそこでの「地域」の区分は
どの程度の範囲と考えればよいのかについて、最新のデータを示すことにする。最後に、
今後、どのように「地域性」を確保していくのかについて話したい。
まず、今なぜ「地域性」が問題となっているのかについて。最近、生物多様性保全、
とりわけ外来種への対策について、行政的にも大きな課題となっているのは周知のとおりである。
ここで生物多様性とは、とにかく生物の種類がたくさんいればいいというものではない。
それぞれの「地域」における進化の長い歴史を経て形づくられた「地域」固有の生物相を保全することが、
重要なポイントである。これこそが生物多様性保全のめざすものであり、この観点をもってはじめて外来種の問題、
つまり「地域」の長い歴史を経ずに、ごく最近の人間活動によって「地域」に突如として参入してきた生物群が
在来生物群集に与える悪影響への懸念、が出てくる。
琵琶湖のブルーギルやブラックバスの例にしても、湖に魚がいて生態系での役割を果たすかぎりは外来種でも
在来種でもいいし、バイオマスあるいは漁獲量という利用価値で勝るならばむしろ外来種でも歓迎すべきであるという考え方も可能である。
実際、多くの経済的動物・植物ではこちらの観点が強調されがちであり、十和田湖へのニジマス放流などはむしろ美談であった。
しかし、生物多様性保全の観点、すなわち琵琶湖固有の生物を保つことが最重要であるという観点からは、
外来魚は徹底的に排除すべきであるという論が生まれてくる。
今日のシンポジウムの「地域性」種苗問題は、多くの植物が経済的な優位性から他の「地域」から持ち込まれ、
そのなかでも生物学的「種」としては交配可能で同じとみなされるが集団遺伝学的には別ものである「地域」外種苗が、
外来種以上に「地域」の在来集団あるいは「地域」固有の生物相に不可逆的なダメージを与えるという「隠れた外来種問題」である。
ふつうの外来種は、捕食や生態学的な競争排除などで在来種を食い尽くしたり、
その生態的地位を乗っ取ったりする可能性があるが、この生物学的「種」を同じくする外来生物の場合には、
在来集団との間に遺伝的な交雑を起こしてしまうという、考えようによってはさらに厄介な問題を引き起こす可能性がある。
これを遺伝子攪乱と呼ぶ。和歌山県で外来種であるタイワンザルが自然のなかに放され、
在来のニホンザルと交雑集団をつくっていたが、日本霊長類学会などがニホンザルの在来個体群を守るためにタイワンザルと
交雑したすべての個体群を殺処分にせよと提言して、動物愛護団体と大きな論争となったのは記憶に新しいところである。
それより先、遺伝子攪乱が問題になった嚆矢は、メダカ(Oryzias latipes)であろう。メダカの集団遺伝の研究では、
日本および東アジアのメダカは、北日本集団、南日本集団、東韓集団、中国・西韓集団に分かれていて、
染色体数から見ると、北日本集団、南日本集団、東韓集団が48で亜種Oryzias latipes(latipes)、中国・西韓集団が46で
亜種Oryzias latipes senensiaとなっている。さらに、南日本集団は複雑で、ミトコンドリアのチトクロームbという
遺伝子マーカーでは東日本型、東瀬戸内型、西瀬戸内型、山陰型、北部九州型、有明型、大隅型、薩摩型、琉球型と9つの違う小集団に分かれる。
メダカ問題では、最近はやりのビオトープで飼育されることもあって、飼育下で増えたメダカをまったくの善意で野外に戻そうとする動きがあるなかで、
「メダカの学区制」、つまり小学校の校区内であれば増殖したメダカを野外に放してもいいが、別の校区に持ち込むのは止めようという運動が関東で始まっている。
さらにメダカにはヒメダカという淡色の飼育品種があって、ペットショップで売っている。このヒメダカも問題視されていて、
神奈川県ではヒメダカが自然河川に放流されていて、そこで交雑が起こり、ヒメダカの性質を持ったメダカ集団が生じてきている。
生物の変異を考えるときには、常に「氏」か「育ち」かという問題がある。「氏」は遺伝的な変異で、
「育ち」は環境によって生じる変異のことである。野外でみられる生物の変異は、「氏」と「育ち」の複合、
つまり「氏」と「育ち」がそれぞれ反映し、さらに「氏」と「育ち」の相互作用も反映しているのがふつうである。
生物の研究者あるいは愛好家が各地を歩いてみると、生物の「地域」変異が目に付くものの、
それが「氏」なのか「育ち」なのかはそう簡単にはわからない。これをはっきりさせるには、まず種子を別の場所に植えてみて
元の性質が変わるか変わらないかを確かめる移植実験、さらには交配可能かどうか、
あるいは異なる地域に由来する異なる性質をもつ両親から生まれた子どもはどんな性質を示すかといった交配実験をおこなう必要がある。
次に、日本列島においてどのようにして「地域性」が生じたのかという話題に移る。
現在の植生の「地域性」について多くは説明しないが、北海道東部あるいは亜高山には針葉樹林帯があり、
北海道西部から東北、中部にかけてはブナ林に代表される夏緑樹林帯、関東、東海から西南日本・南日本には
潜在的には照葉樹林、そして奄美以南では亜熱帯多雨林帯が分布している。しかし、このような植生の分布は、
第四紀後氷期、つまり約2万年前の最終氷期最盛期とよばれる過去10万年でもっとも寒冷であった時期から
次第に温暖化していくなかで形成されてきたものである。過去の気候変動は、海洋底の堆積している有孔虫などの
化石の酸素安定同位体比を測ることによって、かなり正確に復元されるようになっている。
また、実際の植生の変化については、湖沼や海底に堆積した花粉を分析することによって、
また堆積物の年代測定を精密におこなうことによって、知ることができる。過去15万年間をみると、
12〜13万年前ぐらいに最終間氷期があり、それから徐々に寒冷化して約2万2千年前の最終氷期最盛期に至り、
それから急激に温暖化して今日に至るという経過をたどることがわかる。
では最終氷期最盛期の日本(のあるあたり)の植生はどうだったか。北の方を見ると、カラマツの一種である
グイマツやハイマツを中心とする疎林や草原が、東北海道から当時陸続きであったサハリン、南千島にかけて分布していたと考えられる。
また、西北海道から東北の太平洋側にかけてグイマツを含む亜寒帯針葉樹林が分布し、
東北の日本海側(当時は朝鮮半島と九州は陸続きであり、日本海は湖であった可能性が高い)から関東北部、
中部、近畿や中国四国の山地にかけてはグイマツを含まない亜寒帯針葉樹林が分布したとされている。
さらに関東南部から東海、近畿や中国四国、九州の平野部にかけてはマツ属を中心とする温帯針葉樹林があり、
関東以南あるいは北陸以南の海岸部には温帯針葉樹と落葉広葉樹林の混交林があったと考えられている。
現在、西南日本の広い範囲で潜在自然植生となっている常緑樹林(照葉樹林)は確実には現在の屋久島・種子島以南にしかなかったらしい(後述)。
現在、東北日本の大部分の潜在自然植生であるブナやミズナラを主体とする落葉広葉樹林は、当時はほとんどみられなかったようだ。
逆に現在の日本でまずみられないチョウセンゴヨウの森林が温帯針葉樹林としてかなり広く分布していた。
最終氷期最盛期には海水面が下がっていて、対馬海峡はつながっており、対馬暖流が入ってこない。
そのため日本は現在に比べて、ずっと乾燥していたと考えられる。そのため、現在はロシア・沿海州にみられるような
チョウセンゴヨウの温帯針葉樹林が西南日本に広く分布していた。
現在、チョウセンゴヨウは日本では本州中部の八ヶ岳周辺と四国の東赤石山という非常に狭い範囲に生き残っているにすぎない。
こういう寒冷で乾燥した植生から、現在の温暖で湿潤な植生に約2万年かかって大きく変化してきたのである。
植生が変わってきたといったが、実際には寒冷で乾燥した環境でごく狭い生育適地に避難していた植物が、
温暖化・湿潤化に伴って生育適地が拡がるとともに、風や動物によって種子を運ばせて、
現在の分布にまで至ったという表現のほうが正しい。生育に不適な環境が広大にあるなかで、
避難できる生育適地のことを「避難地」あるいは英語をそのまま採用して「リフージア」と呼ぶ。
最終氷期最盛期で分断されたいくつかの「リフージア」こそが、現在の日本における樹木の「地域性」の源泉である。
少しずつ異なる遺伝的変異をもつ集団が「リフージア」に避難し、そこから現在の分布まで拡がっていった。
植物の場合、動物と違って2万年という時間では、新しい突然変異が蓄積するには至らない。
突然変異の起こる確率が、植物と動物では何十倍も異なるからである。したがって、現在の「地域」変異は最終氷期最盛期から
分断された「リフージア」集団からもたらされたものであり、基本的には「リフージア」の数だけ「地域性」があることになる。
では、いかに「地域性」を解明するのか。「地域性種苗」という場合、実際どのような「地域性」、
より正確には「異なる遺伝的組成に起因する地域的変異」があるのかが問題である。
「異なる遺伝的組成に起因する地域的変異」がない植物種の場合には、面倒な「地域」区分などはいらない。
逆に個々の植物種について「異なる遺伝的組成に起因する地域的変異」がそれぞれはっきりしているのなら、
個別の植物種についてそれぞれ「地域変異」ごとの「地域」区分をおこなう必要がある。
分子植物地理学と呼ばれる学問がある。最近の分子生物学の進歩において、分子レベルでの情報が野生生物からも容易に得られるようになった。
そのため、分子レベルの種内変異の地理的分布を調べることが可能になったわけである。
この種内の遺伝的変異の地域分布情報を用いて、植物の分布を規定している要因、
それは環境や歴史だが、を解明しようとするのが分子植物地理学である。
生物は、それぞれの個体が遺伝的に少しずつ異なっている。
同種といえども、集団では複数の異なるハプロタイプ(遺伝子型)が含まれているというのが自然な前提である。
そのハプロタイプの組成が集団ごとに異なれば、集団間には種子や花粉による交流がきわめて稀であり、
ハプロタイプの組成が同じならば、集団間に遺伝的な交流がある、あるいは過去にあったということになる。
ここで遺伝子マーカーとはなにかを説明する。人間の場合、よく知られているのが血液型。
ABO式あるいはRh式は両方とも優性マーカーであり、両親がAとOの場合に子どもはA、Rh+とRh-ならRh+になって、
必ずしも両親の性質が両方とも反映されるとは限らない。また、多型性が少ないために、血液型だけでは個人の識別は不可能である。
それに対して最近ますます注目されているのが、DNAフィンガープリント。
これはDNAの特定の場所にある短い塩基配列の繰り返し(マイクロサテライト)を調べるもので、
個人によって繰り返しの数が異なり、しかも必ず両親の両方の性質を反映する共優性マーカーである。
これはきわめて高い多型性を示すので、複数のマイクロサテライトを調べることによって、個人までを識別することが可能となる。
植物の遺伝マーカーには、さまざまなものがあって知りたいことに合わせて使い分けなければならない。
AFLP法は、栄養繁殖によってクローン株で増える植物で、どこまでがひとつの株なのかをクローン識別によって解明するためによく使われる。
PCR-RFLP法は外見ではほとんど区別できない生物について、種間変異、つまり近縁種のうちで種を特定する変異を検出するのに使われる。
分子植物地理学で、種内変異を検出するのに一番よく使うのは葉緑体DNAの多型である。
核DNAに比べて、1)遺伝子が単一のコピーしかないので解析しやすい、2)単性遺伝(父母どちらかの性質しか遺伝しない、
父母のどちらかであるかは大きなグループによって決まっている)のため、集団ごとに固定しやすく、
地理的パターンが明確に現れやすい、3)被子植物では母性遺伝(母の性質しか遺伝しない)のため、
花粉よりも散布能力が小さい種子の分散のみが反映されるので地理的パターンが現れやすい、といった利点をもつ。
ヨーロッパや北米では複数の植物種を使って葉緑体DNA多型の地理的分布パターンを比較することによって、
植物の分布を規定する歴史的要因についての考察が進んでいる。
日本の樹木の遺伝的分化について、これまで遺伝子マーカーで調べられているのは20種に満たないほどである。
日本には樹木がおよそ1200種あるが、ちゃんと地理的な遺伝変異が調べられているのは、たったこれだけである。
ハイマツ、ゴヨウマツ、カラマツ、トドマツ、スギ、ヒノキ、ブナ、ヤブツバキ・・・・・・、
これくらいしかわかっていないというのが現状である。
まずモミ属5種のミトコンドリアDNAハプロタイプでみると、トドマツとシラビソ、モミとウラジロモミというのは区別できない。
トドマツは道北、道南、道央の集団は全体としてひとつのハプロタイプしかもたないが、
道東の集団はそれぞれ固有のハプロタイプをもっている。しかし、道東の集団でも多数を占めるのは、
道北、道南、道央の集団と共通するハプロタイプであることに注目したい。このことは、個体1本をどんなに調べてみても、
それが広い範囲で優占するハプロタイプである場合には産地の特定が不可能であり、
たまたま特定の地理分布を示す固有のハプロタイプをもっていれば産地が特定できるにすぎないということを示す。
ブナでは葉のサイズについて、大きな地理的変異がみられることが知られている。
北東北から北陸にかけて、あるいは北海道南西部の集団では葉が非常に大きく、南東北太平洋岸から
中部内陸部、中国地方の集団で中くらい、関東太平洋岸から東海、近畿、四国、九州の集団では葉が小さい。
それが「氏」なのか「育ち」なのか、遺伝的変異なのか環境による変異なのかはよくわからない。
葉緑体DNAハプロタイプやミトコンドリアDNAハプロタイプでみると、北陸から東北の日本海側を通って北東北、
北海道の集団はかなり均質なハプロタイプを示し、南東北太平洋岸、関東、中部、近畿、中国・北九州、
四国・南九州の各集団では、それぞれ異なるハプロタイプをもつことが示されている。
しかし、このハプロタイプの地理的分布と葉のサイズの地理的分布に関係があるのかないのかは、依然として不明のままである。
スギ・ヒノキ科だが、葉緑体DNAでみるとスギ科はヒノキ科の中に含まれるひとつの枝
(塊=クラスター)に過ぎない。スギにはオモテスギとウラスギ、つまり太平洋側タイプと日本海側タイプがあって、
ウラスギについては、下枝が雪をかぶって伏条し、そこから発根して独立木になる性質をもっていて、
日本海側の多雪気候に適応したものとされている。マイクロサテライト法でみたスギの遺伝的分化であるが、
確かにオモテスギはひとまとまりのクラスターを形成しているが、ウラスギは「それ以外のもの」の総体としてしか認識できない。
つまり、オモテスギに対比されるようなクラスターをつくらないことがわかる。
最終氷期最盛期には、おそらくスギの「リフージア」は伊豆半島、若狭湾周辺、隠岐、南九州であったと推測されていて、
日本の天然スギの各集団はそのうちのいずれかから分布を広げて形成されたものである。
遺伝的多様性を比べると、「リフージア」となっていたと考えられる場所での現集団では固有な対立遺伝子も稀な対立遺伝子も多く、
温暖化したあとで形成された集団では固有な対立遺伝子も稀な対立遺伝子も少ないという結果がでている。
ヒノキ天然林集団は、南東北・関東、中部・近畿、中国・四国・九州と3グループに分かれる。
照葉樹林を構成する主役はシイ・カシ類であるが、ほとんど地理的変異がでてこない。
最終氷期最盛期におけて、照葉樹林の「リフージア」がどこにあったか。九州南部の地層のみから照葉樹の花粉化石がでるという
「九州南端部説」(塚田 1974)、最終氷期最盛期で推定される1月の月平均気温と現在のカシの分布限界気温から考えた
「太平洋沿岸半島部説」(前田 1980、那須 1979、服部 1985)、九州西回りに分布する植物に
さまざまな生態や生活型のものが含まれていることから「九州西南部説」(中西 1996)などの諸説があるが、
決定的な見解はない。照葉樹林を代表するもうひとつのグループであるクスノキ科では花粉が残らないので、
花粉分析が使えないというのも大きな研究のネックとなっている。
そこで分子植物地理学の出番となる。照葉樹林を構成する多くの植物の地理的変異を調べて、
塩基配列に変異があるもの6種を選んで研究をした例では、6種に共通して頻度5%以上のコモン・ハプロタイプが
多数みられた地域としては、九州南部と紀伊半島、それに準じて伊豆・房総半島、九州北部、さらに四国(室戸岬周辺)が
ピックアップされた。現在の照葉樹林といっても地域によって構成種が違うし、歴史的にも照葉樹林という
一体のユニットとして構成種すべてが同じ分布の変遷をたどったわけではないだろう。
上の結果をこれまでの諸説と考え合わせてみると、かなりまとまった照葉樹林があったのは九州南端部で、
森林の規模はともかく照葉樹林を構成する植物は、紀伊半島、伊豆半島、房総半島、九州南西部、
四国の室戸岬周辺にも生き残っていたことが推定される。
そこから温暖化にともなって現在の植生分布に拡がっていったのに違いない。
今後、どのように「地域性」を確保していくのか。いまから緊急にやるべきことが3つある。
まず、自然再生対象植物の遺伝的多様性および地理的分化の研究。大部分の樹種では、研究の蓄積が圧倒的に不足している。
つぎに遺伝子攪乱の実態調査。これまで「地域性」を考慮せずに植林した多くの例は十分に時間も経過して、
いまとなっては格好の研究対象である。実際に「地域」外に植えられた苗木はその後どうなっているか。
在来集団のハプロタイプ組成あるいは遺伝的多様性にどのような影響を与えているか。
こういった研究は欧米も含めてほとんどやられていない。最後に、自然再生のためのゾーニングと遺伝的ガイドラインの策定。
環境省の地域環境保全等試験研究費では、平成17年度から21年度ということで
「自然再生事業のための遺伝的多様性の評価技術を用いた植物の遺伝的ガイドラインに関する研究」が始まっている。
担当機関は、独立行政法人 森林総合研究所(森林総研)である。特に対象樹種として、ケヤキ、トウヒ属、
サクラ属(オオシマザクラ)、コナラ属(ミズナラ、コナラ、クヌギ)、カエデ属(イロハモミジ、オオモミジ)
などの研究が予定されている。ヤシャブシ属も緑化材料としては、非常に重要である。
しかし、ヤシャブシ属は倍数体といって、染色体のセットが重複しており、遺伝子のコピーが複数、存在するために研究は困難である。
「地域性苗木」を実際の緑化の現場で使うためには、1)科学的根拠に基づいたゾーニングと、
2)トレーサビリティーの確立、が急務であろう。ある原木から種子なり挿し木なりを基に育成した苗木を、
どこまでの地理的な範囲で使うことが「地域性」なのか。今回の話で示したように、ブナならこの範囲、
トドマツならこの範囲と、個別の種ごとに事情が異なると予想されるが、そういうゾーニングが可能なのか。
他方では、トレーサビリティーのシステムと、そこでの虚偽を見破る手段の確保が重要である。
個々の苗木について原木の産地と育成地を表示するといっても、虚偽の表示を野放しにしてはシステムとして底抜けである。
すべての苗木を調べることは現実的でないにせよ、本当に調べる気になればわかるという「伝家の宝刀」がないと
「地域性苗木」を商品として確立するのは難しい。また、調べても違いがわからない、あるいは違いがないというのでは、
生物多様性に基づいた「地域性苗木」という趣旨に反するものである。
「木造で家を建てるのなら県産材を使いましょう」という地産地消の精神での「地域性苗木」を
わたしはまったく否定するわけではないが、そこに生物多様性保全という錦の御旗を掲げるのには反対だ。
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