講演3.地域性緑化樹木の生産供給体制の現状と課題
 国忠 征美 (社団法人日本植木協会)


 実は私も昔は外来種の苗木をたくさんつくっていた。昭和50年からは年間500〜600種の植物を 入れて生産していた。それで本当によいのかどうかはわからなかった。売れたらよいということでやっていたが、 最近はそれではいかんのではないかということで、地域性苗木に取り組んでいる。
 日本植木協会は、全国約700名弱の生産者の団体でいろいろな部会がある。その中のコンテナ部会では 約百数十名のメンバーで、在来の550種の日本の自生植物を生産している。日本の植生を我々の業界でも 勉強しようということで、約9名で各地域の自生植物で緑化用として使われるものがどれくらいあるのか、 緑化だけでなく伝統的な植物の使い方、例えば染色に使う植物などを調べている。
 現在の地域性苗木の生産状況だが、それぞれ採取は各自に任されている。他所から買っている人間もいるが、 自分でつくろうと思ったら自分で探さないとどうしようもない。生産者各自がその地域の植栽されたものでなく、 自然に生えたものをできるだけ採ってやってきたというのが実状である。我々の業界の思いこみで つくっているところもあって、5年先、10年先に本当に売れるのかどうかわからないものもつくっている。 やっと売れればよかったということだ。実際に地域性苗木ということになると、非常に限られた地域を 単位とせざるを得ない。それまでは地域性の単位のことは全然言われていなかったが、エリアを決められると 業者によっては地域性苗木に当てはまらないものも出てくる。地域性苗木ということが厳密に問われたときには、 我々のような意識してやっている人間はいいが、そういうことを考えていない、どこの種子でもいいと 思っている業者には厳しいことになる。
 今後の生産だが、地域性苗木というと少量多品種で非常にコストが高かった。 徳島県に森本康滋先生という方がいらっしゃる。剣山の災害被害地の自然再生のために、苗木生産を 3〜4年前からやらせてもらっている。原価が通常のものの3倍だが、それでも自然再生として必要である ということでやっている。一体、工事価格全体の何%が緑に使われているか。そういうことを役所で 理解する人としない人がいる。じつは苗木代といっても全体の1%にも満たない。それに対して、 ひたすら安くしろ安くしろとおっしゃる。そういう感覚で緑を保全しようとするのがおかしい。 地域性苗木を使う場合は、コストをひたすら下げるという従来の考えでやると我々の業界は誰もついてこない。 現在、公共工事はだんだん減っているのが実情である。そうすると、今までの単価ではとてもやっていけない。 地域性苗木の場合は、原価計算をした上で単価を決めさせてもらった。樹種によっても大きく単価が異なる。 コバノミツバツツジの場合など、育成に非常に年数がかかる。3年経ってやっと30cmになればいいところで、 本当によいものをつくろうと思えば5年はかかる。原価に対して価格がそれを反映していない。 今後、地域性苗木を積極的に導入することになれば、設計単価も高くしてもらわないといけない。 それに対して役所の予算があるかどうかが心配である。我々とすれば、他の仕事がないからやれるわけで、 他の業務ができればそちらに流れる。
 流通上の問題としては、表示がないと普通の苗と全然区別できない。関東で採られたのか、 関西で採られたのか見ただけではわからない。産地表示は我々にとっては絶対必要で、それがないと 地域性苗木は成立しない。それなりの学識経験者なり、機関なりに検査を受けて産地表示をする必要がある。 今後地域性苗木をやる場合、はっきりとした検査機関と表示がもっとも大事だと思う。 採取地、育成地の証明がはっきりしないといけない。そのためには生産者の検査ではなく、 流通する商品の検査が必要である。
 受注生産となると、我々がスタンバイするために、設計の段階で情報が入れば3年から5年先であれば対応できる。
 国立公園であろうが、国定公園であろうが、海外のものがいっぱい生えている。それらを今後放っておくのか。 地域に生えているものに改善していくべきではないか。山に入っても西洋の植物が生えていたりする。 それを今まで放っておいて、今さら地域性苗木だといわれるとむかっとする。そういう乱れた日本の自然を 直すのが本当の地域性苗木ではないかと思う。
 我々としては行政区分で植物生産地の地域を区分けするのではなく、本来の植物の分布を見て 地域性苗木を考えてもらいたい。生産者の方では、すでに厳密な地域性苗木の基準に応えるだけのメンバーが いるということを認識していただきたい。