講演4.新しい緑の考え方(グリーンマネジメントガイドライン案について)
 橋本 拓己(国土交通省 近畿地方整備局 道路部 計画調整課長)


 私の肩書である計画調整課長というと、主に環境関係のこと、道路に近隣する大気の問題など、 環境アセスメントや自然環境などを考えさせてもらっている。
 役所に対して辛口の話もあったが、私どもの方ではグリーンマネジメントガイドラインの案を平成17年3月につくっている。 簡単にいうと、緑化のマニュアルのようなものである。国土交通省でのとりまとめというより、 近畿地方整備局での取り組みとしてお聞きいただきたい。
 グリーンマネジメントガイドラインづくりは平成12年に各地方整備局に課題として出されたもので、 近畿地方整備局はじっくり時間をかけてやった。国道緑化はこれまで4つの観点があった。
1)道路景観の向上、2)沿道の生活環境の保全、3)安全性・快適性の確保、4)自然環境の確保である。
はっきりと自然環境の問題を謳っている社会基盤整備である。道路は人工物の最たるものだが、 そこにできるだけ緑、あるいは自然を入れていこうとするものである。世の中も急激に変わってきていることもあって、 今後さらなる道路行政の推進をしていくには、新しいニーズへの対応や依然として厳しい沿道の環境の改善などが大きな課題である。 最近特にいわれているのが、地球温暖化や生物多様性の観点であり、道路も非常に重要な公共の空間 ということで積極的に緑化のガイドラインを示していこうということである。
 今回のグリーンマネジメントガイドラインの案で最終的に目指すところは、道路の緑というのは 人々に育てていただいて親しまれていく、つまり、長い時間をかけて地域に定着することを狙っていこうというものである。 地域の自然と地域固有の資源を活用し、それと合わせて地域の方々と対話を重ねながら協働して緑化を 進めていこうという考え方である。
 グリーンマネジメントガイドラインでは、管理は担当者が変わってもこれまでのいきさつを記録しておいて、 それを引き継いでいけるようなシステム化をしようということで、計画から管理まで一貫した体系づくりを目指している。
 今日テーマになっていることに関しては、グリーンマネジメントガイドラインでは3つの柱を立てている。 1つ目は「育てる緑」、2つ目は「マネジメント」、3つ目は「地域に根ざした緑」である。 「育てる緑」は、小さく植えて大きく育てる。つまり、大きな成木を持ってきて植えるのではなく、 幼木を持ってきて活着させ、沿道の住民の方に愛着を持って育んでいただくということを考えている。 また、住民の意向の反映、協働ということも意味している。計画から管理の段階で、 住民の方の意向を反映し、一緒になって緑を育てていこうというものである。 2つ目の「マネジメント」は、「計画」・「施工」・「管理」に加えて「評価」を入れている。 施工してその後5年ないし10年経ったときに、当初思ったとおりの緑になっているか、 あるいはできあがった頃に皆さんの考え方が変わっていれば改善するものはないかを評価して改善しようというものである。 3つ目の「地域に根ざした緑」であるが、地域に根ざした緑にどんなものがあるかということについて、 ここでは2つほどとりあげている。1つは地域性に根ざした機能とデザイン、もう1つは生物多様性に配慮した 樹木の使用としている。道路は、都市部や郊外などのいろいろなところにある。 グリーンマネジメントでは、いわゆる都市的な景観形成をしていくなかでの緑については、 地域性緑化を求めるよりも都市的な緑化の仕方があるのではないかということで、地域性緑化には こだわらないという考え方にしている。一方で地方については、原則として地域性緑化をしようということにしている。
 グリーンマネジメントガイドライン案で地域性緑化を採用するとなった経緯だが、 ここにおられる高田研一先生をはじめとした先生方に入っていただいて、単に緑ということではなく 地域性にも配慮してやっていく必要があるという指導を受け、私どものグリーンマネジメントガイドラインに反映することができた。
 ガイドライン案としてすでにできあがっていて、これから現場の方で使っていく段階である。 まず今年度は近畿整備局の各事務所で、緑化植樹や街路樹などで使ってみて、いろいろ課題が出てくれば、 またフィードバックしてガイドラインをより完成度の高いものにしていこうとしている。 これは現場の方で対応しつつある。ガイドラインは計画から管理までということだが、全ての事務所で 最初の計画から入るということではないので、いろいろな段階で取り組んでいこうとやっている。
 これから地域性緑化樹木を採用していく場合に、正直言って未知数の部分が結構ある。 発注に関しては、地域性緑化の品質の確認、証明ということが制度化されていないことに加えて適正な 価格という問題も出てくると思う。現場サイドでいうと、先生方にご検討いただいてガイドラインが できたわけだが、担当者が変わっても、その精神がきちんと伝わっていくように、記録として部署の中で 引き継いでいくシステム化を図り、今後も継続していくことが大事なことではないか、役所の中のシステムだけで やっていくのは難しく、専門の先生方に、末永く緑をみていただくことも考えていく必要があると思っている。 地域性緑化については私の知る限りでは外来種を排除しようということがいわれはじめているが、 積極的に地域性緑化を取り入れていくというのはまだないので、近畿整備局での取り組みを全国へ情報発信していきたいと思っている。